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かくれ念仏を訪ねて

 熊本県水俣市にある源光寺には、「抜け参り」といって薩摩藩境を密かに越えてお聴聞にやってきた門徒が、取り締まりの役人に見つからないように身を隠したという薩摩部屋が残されています。出勤僧侶が出入りする後堂と呼ばれる本堂内陣裏手の入り口の脇の階段を下りた短い廊下の先に小部屋があり、ご本尊が安置されています。意外と高さがあり、腰をかがめる必要はありませんでしたが、四畳程で多くは入れません。ご本尊の脇に、さらに小さな潜り戸があり、本堂床下に降りることが出来ます。おそらくご本尊にご挨拶をしてから、床下に移動されたのでしょうが、そこは流石に腰をかがめなければ動けません。土間ですから冬はとても寒かったでしょうが、お勤めやお説教は良く聞こえたことだろうと思います。法然上人の法話を床下で聞いた盗賊、耳四郎のエピソードを、その場で聞かれたときはどんな気持ちになられたことでしょう。


ご本尊の右上に掛けられた石抱きの絵
ご本尊の右上に掛けられた石抱きの絵

 「抜け参り」は命がけではあっても、荘厳なお寺に参れるという楽しみもあったかもしれませんが、通常は、隠れ念仏洞と呼ばれる、人目につかぬ山中の洞穴などで開かれる法座でした。

 坊守さまに、色々お話を伺えましたが、やはり悩みは、年々参拝者が少なくなってきていることだそうです。誰憚ることなく、いつでも自由にお参りできる世の中になって、かえってお参りする気が起こしにくくなっているというのも皮肉なものです。

 

万が一見つかれば、この様な過酷な拷問が待っていました。


 「抜け参り」は命がけではあっても、荘厳なお寺に参れるという楽しみもあったかもしれませんが、通常は、隠れ念仏洞と呼ばれる、人目につかぬ山中の洞穴などで開かれる法座でした。

 いくつかの念仏洞が遺されていますが、有名な花尾念仏洞など整備されていて容易に訪ねることができる場所は限られています。ほとんどの念仏洞は、写真などで紹介されていても、大まかな住所しか分からず、カーナビにも表示されません。今回、もっとも感激したのが、道に迷いながら、執念で辿り着いた「都迫(どんさこ)のかくれ窟(くつ)」です。

 


 ここが他と違うところは、その内部の広さです。入り口は断崖の中ほどにあり、外部からはまず分かりません。ロープを頼りに急な穴を降りて行き、腰を屈めながら曲がりくねった通路を進んで行くと、意外に広いスペースにでます。壁にはくぼみが付けてあり、ローソクをつけると部屋ぜんたいが明るくなりました。

ご本尊に香と灯りをあげ、讃仏偈のお勤め。

坊守のはしゃぎようは皆さんの想像におまかせします。